桜吹雪

 桜吹雪の中、ひとり佇む祐巳。
 はらはらと落ちてくる桜の花びらを手に取ると、ふとあることが頭をよぎった。
『桜はまずいから嫌い。見るのも嫌』
 お姉さまはまずい桜が嫌いだった。
「どれ……」
 桜の味を知らない祐巳は、試しにと手のひらの花びらを一枚つまんで口に運んだ。
 よく噛んで味わってみたが、一枚食べただけでは、味はよくわからなかった。
 こくっと飲み込んでから、ふと桜を見上げる。
 桜の花びらは風に吹かれ、まるで雪のように降り続けていた。
 その光景を、じっと見つめる。
 そして、祐巳は口を開いた。
「あー」
 そのままの状態で、およそ十秒ほど待ってから、
(案外、口の中に入ってこないものね)
 心のなかで呟きながら、諦めてその場を後にした。

おしまい。

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