おかわり

 私が祥子さまと姉妹になってしばらく経った、まだまだ寒さが厳しいころの、ある日のお茶会。
 薔薇の館二階の会議室では山百合会メンバー勢揃いで、皆それぞれ温かいものを飲みながら、和気あいあいと会話の花を咲かせていた。
 話が盛り上がる中、私がふと白薔薇さまを見ると、マグカップでホットコーヒーを飲んでいるところだった。
 いつもカッコよく美味しそうにコーヒーを飲むなー、なんて思って見ていたら、ぱっと視線が合った。
 白薔薇さまはカップから口を離さないまま、首をふるふると左右に振った。
(あげないよ)
 私は静かに睨みながら首を左右に振った。
(いらないです)
 白薔薇さまったら、すぐにからかうんだから。
 それにしても、なんだか最近は白薔薇さまと目が合っただけで、少しだけ考えてることが分かるようになってしまった。
 親しくなったと言うか、波長が合ってきたと言うか、そういうことだろうか。
 そんなことを考えながら、横目でちらっと祥子さまを見た。
 祥子さまは、いつものように私の横の席に座っていて、みんなの話に静かに耳を傾けながらエレガントに紅茶を飲んでいた。
(それにしても……)
 私は心の中で小さなため息を付いた。
 白薔薇さまとならちょっと目があっただけで意思疎通ができるのに、祥子さまと目が合うと照れとか恥ずかしさとかで心がドキドキして意思疎通どころの話ではなくなってしまう。
 私が小心者なのがいけないのだけれど、もし、祥子さまとアイコンタクトだけで想いが通じ合うようになれたら……。
 そうやって甘く切ない想いに心を馳せていると、なにやらよこしまな視線を感じた。そちらを見ると、白薔薇さまが頬杖をついてにやにやとこちらを見ていた。
(祐巳ちゃんは本当に何を考えているか分かりやすいね)
 私はムッとした顔を作った。
(ほっといてください)
 そうやって拗ねてみたが、白薔薇さまはそれに構わずアゴで祥子さまを指した。
(試しに祥子にやってみたら)
 試しにって……簡単におっしゃいますけど……。
 ……でも、もし私の想いが祥子さまに通じたなら……。
 じっと我慢して目で訴えかければ、祥子さまとの波長が合って、私の想いが通じるかもしれない。
 もしそうなれば一歩前進、いや、かなり親しくなったといえるのではないか。
 白薔薇さまの尻馬に乗るようで少ししゃくだけど、確かに試してみなければ分からない。
 私は覚悟を決めて、じっと祥子さまを見つめた。
 私の想いを送る。
(お姉さま、大好きです)
 しばらくそうしていると、祥子さまが視線に気づいてこちらを向いた。
 目が合い、見つめ合う姉妹。
 しばしの沈黙、そして。
 祥子さまは、優しい微笑みを浮かべ静かにうなずくと、私に空になったティーカップを渡した。

おしまい。

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