しるし

 リリアン女学院高等部では今、空前の姉妹キスブームが巻き起こっていた。
 こっそり、人気のないところで、妹からお姉さまにお願いをして(※ここが重要らしい)キスをするのがよしとする妙な作法まで出来上がっていた。
 この流行は次第に熱を帯び、早朝や放課後はもちろん、最近では各授業の間の準備時間にまで各所で不自然な動きをする姉妹を頻繁に見かける。
「まったく、どうなっているのかしら」
 下品、とまでは言わないが、これは風紀の乱れである。
 由乃は放課後の薔薇の館のお茶会でこの話を切り出したのだが、話をしているうちに妙なことに気付いた。
 祥子さまと祐巳さんの様子が明らかにおかしい。
 いつもなら語気を強くして、
「このような破廉恥なこと言語道断!」
 と、烈火のごとく怒り出しそうな祥子さまはいやに静かだし。
 隣にいる祐巳さんに至っては、顔を真っ赤にしてひたすらうつむいている。
 ……聞くに及ばず。
 まあ祐巳さんにしては、祥子さまにおねだりだなんて相当勇気を要したことだろう。仕方がない、不問としよう。
「志摩子さんはどう思う?」
 紅薔薇姉妹を諦めて、話を志摩子さんに振ると、彼女は「そうね」とつぶやいてから続けた。
「確かに流行に乗せられて軽率な行動を取ってしまうのは、良くないことだと思うわ。あまり健全とは言えないし」
 真剣な面持ちで意見を述べる志摩子さん。なるほど、ごもっともな意見。さすが次期白薔薇さまらしい芯の通った答えだ。
 さて、ところで志摩子さん、首のその絆創膏は一体……?

おしまい。

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