聖が紅茶を淹れるまで

「ごきげんよー!」
 年の瀬のある日の放課後。今日は薔薇の館に集まってみんなで終業式に向けてのお仕事。
 私はもろもろの仕事が面倒だから、よそで時間を潰してわざと遅れて薔薇の館に来た。そんなわけだから、てっきりみんな勢揃いしているものだと思って、元気よく挨拶したというのに、会議室には蓉子と江利子だけ。
 密度の少ない部屋に私の声はよく響いた。
「元気がいいわね」
 蓉子が書類整理をしていた手を止めて、少し顔を上げて言った。
 江利子に至っては一切気にも止めず、紙にペンを走らせている。
 おかげで私はすっかりテンションが下がった。
「二人だけ?他のみんなは?」
 わざと大きくため息をつきながら言うと、
「みんなには職員室に出向いてもらったわ。人数の必要な用事ではないけれど、一年生には仕事を覚えてもらわなきゃいけないからね」
 あなた以外はとっくに仕事に取り掛かってますよって。
「なーんだ、祐巳ちゃんいじりを楽しみに来たのになー」
 私は椅子に腰掛けながら「つまんない」と言葉を付け足した。
 椅子に座って机に突っ伏す私。
「ねぇ、何してるの?」
 蓉子に聞くと、
「作業」
 と、にべない返事。
「何かすることある?」
「もうすぐ全て終わるわ」
 つまんない。つまんない。そりゃあ私がわざと遅れてきたのが悪いのだけれど、それにしたってこんな酷い仕打ちはないじゃない。
 これ以上無く突っ伏してそっぽを向く。
 程なく、
「戻りました……、あ、白薔薇さま」
「祐巳ちゃん!」
 私は待ってましたと椅子を立って祐巳ちゃんを抱きしめに走った。
「祐巳ちゃーん」
 抱きしめようとすると祐巳ちゃんは両手を突っ張って「いやー!」と離れようとする。
「私にはお姉さまがー!」
「祐巳ちゃんはみんなの祐巳ちゃんだもん。祥子も分かってくれるよー」
「困ります」
「わ、祥子も居たの」
 よく見ると後ろに志摩子も令も由乃ちゃんも居た。
「さあ白薔薇さま、遅れてきたあなたのお仕事よ。みんなのお茶を用意して頂戴」
 蓉子がエラソーに言う。
「えー」
「つべこべ言わない」
「もー、分かったよ……」
 すると祐巳ちゃんが、
「あ、白薔薇さま、お手伝いします」
 と言ってくれたからありがとうのハグをしようとしたら、祥子にとても怒られました。

おしまい。

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