お題:白薔薇



溶け込み


 葉桜の候、薔薇の館には祐巳さま、由乃さま、そして志摩子さんと乃梨子。今日は特に仕事もないのでささやかな茶話会な日。
 山百合会では紅茶を淹れるのもお淑やかに。志摩子さんと出会ってはやひと月、乃梨子の紅茶スキルもようやく様になってきた。
 もうすぐアイスティーの時期になるな、などと思いながら紅茶を淹れていく。茶葉の入ったティーポットにお湯を注いで少し蒸らし、頃合いを見てカップに注いでいくと、部屋には紅茶の良い香りが広がった。
「お待たせしました」
 乃梨子は四つのカップをお盆に乗せて、テーブルを時計回りにぐるりと配っていく。
「どうぞ」
「ありがとう」
 にこりと笑顔で応える祐巳さま。
「どうぞ」
「ありがとう」
 しずしずと頷く志摩子さん。
「ほらよ」
「なんでだよ!」
 憤怒の由乃さま。
「ちょっと志摩子さん!監督不行き届きじゃないのー!」
 ばんばんとテーブルを叩く由乃さま。
「乃梨子ったら」
 ふふふと笑う志摩子さん。
「全く……。まあいいわ、じゃあ、乾杯」
 由乃さまの音頭に合わせて紅茶を一口。
「一年生の淹れてくれるお茶は美味しいわ」
「お姉さま方もこんな気持になっていたのね」
 しみじみと語る祐巳さまと由乃さま。
 乃梨子は自分で淹れた紅茶を飲んでみても至って普通の味で、そう言う物なのかな、とちょっと不思議に思った。
「乃梨子ちゃんは良いね」
「志摩子さんが羨ましい」
 口々に言うお二人。それを聞いて、
「そうね」
 と、志摩子さんは嬉しそうに微笑んだ。乃梨子はそれだけで、とてもとても幸せな気持ちになった。
 茶話会は進み、
「おかわり淹れますね」
 乃梨子が席から立つと、
「ねえ乃梨子、私にもやって」
 と、志摩子さんが言った。
「分かりました」
 そう答えて乃梨子は再び紅茶を淹れ、そしてまたテーブルを時計回りに配っていく。
「どうぞ」
「ありがとう」
 にこりと笑顔の祐巳さま。
「どうぞ」
「ありがとう」
 しずしずと頷く志摩子さん。
「飲め」
「なんでだよ!ちゃんと志摩子さんにやりなさいよ!」
 志摩子さんはまた嬉しそうに微笑んでくれていた。

おしまい

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